ICORP器官再生プロジェクトの日本側研究総括を務められたのが、東京大学の浅島誠博士です。浅島博士は、器官再生の文字通り、心臓や肝臓などの臓器を、いかにその形どおりに再生できるかというテーマで、このプロジェクトに取り組まれました。博士は、もともとカエルやイモリなどの両生類の発生研究を長年されており、これらの動物のもつ特殊な能力に早くから着目されていたのです。その特殊な能力とは、これらの動物がもつ、高い再生能力です。特に、イモリなんかは、手足を切り取られてもちゃんと元通りにはえてくるんですよ。驚きですよね。
カエル初期発生胚の特定部分(アニマルキャップと呼ぶ)は、前回説明したES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞の特徴をもっているのだそうです。すなわち、身体のすべての細胞に分化(変化)できる能力をもっているということです。さらに面白いのは、これが高い再生能力と関係があるのかどうかはわかりませんが、その分化した細胞をさらに組織や器官にまで変化させることができるというのです。方法も、非常に簡単で、アニマルキャップに試験管の中で、アクチビンというタンパク質やレチノイン酸という化学物質を添加するだけいいのだそうです。これは、それまで、ES細胞やiPS細胞にはできない芸当でした。心臓なら心臓の形でちゃんと拍動し、目なら本来の目を取り除いたところに、その培養で作り出した目を移植すればちゃんと視神経がつながります。現在では、この技術をマウスにも応用し、ES細胞から同様の方法で、すい臓様の構造をつくることにも成功したそうです。ただ、この場合はまだカエルのように、ちゃんとした臓器の形にはなっていないようですが。やはり両生類と哺乳類の間にはまだ乗り越えなければならない大きなハードルがあるようです。
カエルのアニマルキャップは、初期発生胚の一部であり、ES細胞やiPS細胞のように、それを長期間、多能性分化能を維持したまま培養することはできません。つまり、アニマルキャップは、ただの細胞というよりは、初期発生を進行中の胚組織に近い状態だといえるでしょう。ですので、その発生中の勢いを保持している分だけ、一気に臓器の形にまで分化できてしまうのだと考えることもできます。実は、ES細胞もアニマルキャップと同じ、発生中の胚組織からとってきた細胞なのですが、ある特殊な処理をすることで、それ以上発生が進行するのを抑え、多能性分化能を維持したまま、細胞として長期間ふやすことができているのです。ですので、その特殊な処理を止めると、再び、発生過程を再開します。これだと、アニマルキャップと同じように、発生中の勢いを取り戻して、一気に臓器の形まで分化してもいいように思うのですが、そうはいかないようです。この違いが、両生類にはあって、哺乳類にはない、高い再生能力と関係があるのか?それともアニマルキャップがもっていて、ES細胞が失ってしまった、その発生中の勢いのようなものが関係しているのか?今後もこの分野の発展からは、目が離せません。
ちなみに皆さんは、テレビや新聞で、ヒトの耳のようなものを背中にくっつけたマウスを見たことがあるかもしれません。ヒトの耳が、マウスの背中で器官再生したかのようなあの映像は、実は、耳の形をした模型の表面を細胞が覆っているだけなのです。器官の骨組みだけは、人工素材で作って、その上に機能をもった細胞を増やすというのも、立派な再生医療技術なのですが、ちょっと誤解を生む映像でした。でも、将来的には、マウスの背中で一からヒトの耳を作ることもできるようになるかもしれませんね。(つづく)